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2016年12月17日(土)

「倒立大学の出身だって?」「都立大学です。逆立ちの練習はしません」

Mesa27

多民族研究学会(MESA)、第27回全国大会@専修大学神田校舎。今回は、研究発表が2つと、講演が2つ。どれも充実した内容で、たいへん勉強になった。

日本女子大学の学術研究員、秋田万里子さんの発表は、ユダヤ系作家シンシア・オジックの連作小説『ショールの女』について。ナチスの収容所で娘を惨殺された主人公ローザが、自己投影のために娘の記憶を捏造する。個人的には、捏造された記憶(=物語)と、歴史の間に違いはあるのか?歴史もまたツクリゴトであり、両者の違いは程度問題ではないのかと思い、質問に立った。捏造された記憶は、「歴史的事実」からではなく、ローザ自身が本来持っていた記憶から遊離する、というようなお答えだったと思う。

大妻女子大学の伊藤みちる先生の発表は、トリニダードとバルバドスにおける聞き取り調査をもとに、両島におけるヨーロッパ系住民のホワイトネスの捉え方を比較した内容。精緻な分析はこれからということだったが、「白人」が無条件で社会的にも経済的にも特権を享受するトリニダードでは、「白人であること」が重視されるのに対し、ヨーロッパ系住民がエリート層と最貧困層(アイルランド系が多い)に分かれるバルバドスでは、人種的な要素よりも、教養や財産を持っていることが重視されるというのが興味深かった。

ご講演は、まず東京農業大学・山嵜文男先生がウィリアム・フォークナー『アブサロム、アブサロム!』の語りについて、原文をもとに精緻な分析をされた。4人の「語り手」の語りに、一見全知に見える「話し手」が介入し、内容を修正したり、「お墨付き」を与えたりしながら、サトペン家の物語が語られていく。しかし、「話し手」の視点もまた制限されており、必ずしも全知ではない。お話を聞いていて、「話し手」の語りは、南部コミュニティの集合的なものではないかという印象を持ったが、講演終了後、そのことをお聞きしたところ、必ずしもそうとは言えないとのお答え。フォークナーを久しぶりに読み直したくなった。

最後に、国士舘大学の鈴木裕之先生が、最新のご著書『恋する文化人類学者』をもとに、コート・ディヴォアールで出会ったアフリカ人女性との恋愛と結婚という体験について語られた。8日間にわたる結婚式の詳細 ― 列席者の歌や踊り、婚資の交渉、グリオの褒め歌、さまざまな儀式など ― を、実際のビデオを流しながら、紹介された。式の通過儀礼的な意味を、文化人類学的枠組を用いて分析しつつ、<友人の結婚式で何をビデオに撮るべきかについて奥さまと意見が食い違った>というエピソードを通じて、そうした枠組、訓練された文化人類学者の視点の限界についても言及された。わかりやすく、興味深い、大変素晴らしいお話だった。

Murakamiharuki

村上春樹色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋、2013)を読み終わった。(以下、一部ネタバレあり)提示された謎が解決されないのは、村上作品ではよくあることだが、それにしてもこの作品はいくつもの謎が無為に放りだされていて、途方に暮れる。灰田はどうしてつくるのもとを去ったのか。灰田の父が出会ったジャズ・ピアニストは何者か。シロはなぜ殺されたのか。沙羅がいっしょに歩いていた中年男性は誰か。沙羅はつくるを受け入れてくれるのか。何一つ解決されない。東野圭吾だったら、最後に全部が結びついて、読者をあっと言わせるところだろう。チェーホフのいう「拳銃が出てきたら、それは発砲されなければならない」という原理に、挑戦しているようなところが村上作品にはある。リアルな世界では必ずしも解決は与えられない。しかし、これはリアルな世界ではなく、小説なのだ。話のひっぱり方が上手いので、つい最後まで読んでしまうが、書きかけの作品を読まされたような、狐につままれた気分。

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