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2015年8月31日(月)

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黒崎真『アメリカ黒人とキリスト教 葛藤の歴史とスピリチュアリティの諸相』(神田外語大学出版局、2015)を読み終わった。アフリカ系アメリカ人にとって、キリスト教は相反する二つの意味を持っている。奴隷制時代、聖句を恣意的に引用することによって、奴隷所有者たちは奴隷を従わせようとした。また、野蛮な暗黒大陸の異教徒にキリスト教を授けることによって、その魂を救ったという理由で、奴隷制は正当化されると考えた。しかし、奴隷たちはそうした主人たちのキリスト教徒は別のキリスト教 ― 被抑圧者の解放物語 ― があることを知っており、秘密の宗教集会「見えない教会」で、自分たちだけの祈りを捧げた。

こうした成り立ちからして、アフリカ系アメリカ人の歴史において、キリスト教は解放運動を推し進める役割を果たすこともあったし、保守的な役割にとどまることもあった。黒人霊歌にはしばしば解放のメッセージがこめられていたし、奴隷の反乱を率いた人物は宗教的な霊感に導かれて行動した。地下鉄道(逃亡奴隷を助けるネットワーク)で活躍したハリエット・タブマンは、「女モーセ」と言われた。公民権運動において、マーティン・ルーサー・キングをはじめとする南部の勇気ある牧師が大きな役割を果たしたことは言うまでもない。

しかし、一方で、20世紀初頭の黒人教会はむしろ保守的な傾向を示していたし、キング師らの直接行動に難色を示す黒人教会も少なくなかった。近年では、アフリカ系アメリカ人の二極化のなかで、中産階級の黒人とともに郊外に移動した黒人教会は、インナーシティに取り残された黒人貧困層にとって遠い存在になりつつある。黒人牧師のなかには、ユージン・F・リヴァース師のように、黒人貧困層が貧困と暴力から抜け出すために、積極的に活動している人物もいるが、インナーシティの若者を引きつけるのは、むしろ、ネイション・オヴ・イスラムファイヴ・パーセント・ネイションのようなイスラム系の団体であることも多い。

本書は、こうした歴史と現状を踏まえながら、アフリカ系アメリカ人にとって、「神は解放の源泉か、抑圧の源泉か」という「根源的問い」に取り組んだものである。もちろん、解放と抑圧のどちらかを正解とする単純な結論はありえず、両者は「絶えざる緊張関係」にあると言わざるを得ないのだが。そうした緊張関係のなかで、ソウル・フードやヒップホップ、キング師とバラク・オバマまで、アフリカ系アメリカ人文化の多様な側面をとらえようとしているところが、興味深い。

個人的には、解放の成就という未来の地点から現在を眺めようとする出エジプト記的な視点と、黒人説教の持つ聴覚的な性格(70)といった点に興味をひかれた。後者はたまたま同時進行で読んでいた岡本太郎の本にあるこんな一節と響きあう。

 純粋に音として聞いてみる。そこには必ず、生活そのもののリズムが波うち、響いている。ズーズー弁といって、とかくコミックに使われたり、軽蔑される東北地方の言葉は、逆に言いようなくリズミカルだ。その美しさが心にしみてから、意味をとる。すると、いかにその音の流れと、表現・内容が切実であり、直截であるかということが分かる(『神秘日本』角川ソフィア文庫、8-10)。

口頭で伝えられる民衆の営みが聴覚的であるのは当然のことだろう。アフリカ系アメリカ人のキリスト教の場合、そのルーツは「見えない教会」の秘密集会にある。それはやがて、教会や聖書を備えた「見える教会」になっていくが、「見える教会」から取り残されたインナーシティの人びとにとって、一部のヒップホップが「見えない教会」の役割を果たしているのかもしれない。もはや、それはキリスト教ではなく、宗派を超えたスピリチュアリティなのかもしれないが、ラップも含め奴隷制時代の口承文化への回帰と言うこともできるだろう。


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遠峰あこ飲んどこライブ@野毛の居酒屋すきずき。おニュー(←死語?)のアコーディオンを持って、笑顔のあこさん。

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