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2013年4月8日(月)

明治学院非常勤、前期第一回目。ジェイムズ・ブラウンの「セイ・イット・ラウド ― アイム・ブラック・アンド・アイム・プラウド」を聞きながら、授業スタート。第一回目ということで、イントロダクション。アフリカ系アメリカ人とは、黒人とは、何ものなのか。みんなわかっていると思っているだろうけど、果たしてどうかな? 「アフリカ系アメリカ人」という言葉は、肌の色を指標にした「黒人」に代わる、より「政治的に正しい」表現であると考えられている。でも、それじゃあ、黒人=アフリカ系アメリカ人なんだろうか。そもそも、肌の色が黒い人が黒人なんだろうか。授業を始めるにあたって、このあたりのことを考えてみたい。

Lena_horne_1950s Barack_obama2 220pxkatherine_dunham Lynottphilbio

プリントに8人の人物の写真を並べてみた。どの人がアフリカ系アメリカ人で、どの人がそうでないか、わかるかな? 上段左端の女性、レナ・ホーンっていう歌手・女優だけど、この人がアフリカ系アメリカ人じゃないと思う人・・・ほとんどの人がアフリカ系アメリカ人ではない、いわいる「白人」だと思ったみたいだね。でも、この人はこの時代のルールに従えば、黒人。アメリカには長い間、一滴でもアフリカ人の血を受け継いでいれば、黒人として差別を受けるという「ワン・ドロップ・ルール」があった。だから、「黒人」だからって、肌の色が黒いとは限らないんだ。

そのとなりは、みんな知ってるね。現在のアメリカ合衆国大統領バラク・オバマ。彼がアフリカ系アメリカ人だと思う人・・・うん、ほとんどの人が手を上げたね。でも、これも実は微妙なんだ。オバマのお父さんはケニア出身の留学生。たしかに、オバマはアフリカ人の血を引いている。でもね、オバマといわいるアフリカ系アメリカ人の間には決定的な違いがある。一般にアフリカ系アメリカ人の人たちは、奴隷としてアメリカに連れてこられた人たちの子孫だ。アフリカのどこから連れてこられたのか、今となってはほとんどの場合、わからない。だから、大雑把に「アフリカ系」と言うわけ。オバマの場合、お父さんは自らの意思でアメリカに来た現代の留学生だし、ケニアから来たことがわかっているから、「ケニア系アメリカ人」というべきだね。

次がキャサリン・ダーナム。この人も微妙だね。彼女はダンサーで、アフリカ系アメリカ人のバレエを確立した振付師でもあった。もちろん、アフリカ人の血を受け継いでいるんだけど・・・どうだろう?レナ・ホーンほどではないとしても、メキシコ系です、とか言っても通じそうな感じだ。レナ・ホーンやダーナムのように白人でも通用する人たちのなかには、いっそ黒人としてのアイデンティティを捨て、白人として生きようとする人たちが出てくる。これを「パッシング」っていう。パッシングっていうのは大変なことだよ。白人として生きていくには、色の黒い親兄弟親戚と縁を切らなければならない。自分を偽り、孤独に耐え続けなければならないんだ。そのへんのことを知りたければ、ネラ・ラーセンの『白い黒人』(原題はPassing)とか、フィリップ・ロス原作の映画『白いカラス』なんかを参照してください。

一番右はフィル・リノット。ロックが好きな人なら知ってるかな。シン・リジーっていうバンドのヴォーカル、ベースだった人。白人と思った人が多いみたいだけど、ちょっと微妙な感じもするね。この人はね、お母さんがブラジル人で、お父さんがアイルランド人。ブラジルの場合、白人と黒人はアメリカほど隔離されていないから、ことによるとお母さんの家系にアフリカ系の人がいたかもしれないね。でも、ここでアイデンティティに関してもうひとつ重要なことがある。それは本人の意思。フィル・リノットは自分はアイルランド人だという意識をどんどん強くしていった人でね。バンドの音もアイルランド色を強めていった。つまり、ワン・ドロップ・ルールみたいな外部からの決めつけではなく、本人の選択が重要になってくるということなんだ。アメリカの国勢調査人種欄も現在では、自己申告制になっている。

Jean_toomer Charliepatton Cast_martha Tredl

下の段に行くと、いちばん左がジーン・トゥーマー。1910~20年代に活躍した作家だ。白人に見える?でも、彼もアフリカ系アメリカ人だ。『砂糖きび』っていう美しい作品は、日本語訳も出ているので、ぜひ読んでみてほしい。その隣が、チャーリー・パットン。白人だと思う?実際、髪もなめらかなブロンドで、白人にしか見えなかったって話もある。でも、この人もアフリカ系。初期のブルースを代表する偉大なミュージシャンだ。次はマーサ・レイっていう女優だけど・・・これはだまされなかったかな。この人は白人。黒人のステレオタイプには「唇が厚い」っていうのもあるんで、だまされる人もいるかと思ったけど。チャップリン後期の映画なんかに出ているコメディエンヌだね。最後はタンパ・レッド。この人も微妙?彼もブルースマンで、アフリカ系。スライド・ギターの名手だった人。肌の色が薄いので「レッド」っていうあだ名で呼ばれていたんじゃないかな。

これでだいぶわかったんじゃないかと思うけど、アフリカ系アメリカ人かそうじゃないかっていうのは、見かけだけではわからない。アイデンティティはワン・ドロップ・ルールのような社会的な決め事や、血筋、外見、本人の意思、育った環境・・・といったさまざまな要素が重なって決定される。ある人がアフリカ系アメリカ人か、そうじゃないか、あるいは黒人か、そうじゃないかって言うのはそんなに簡単に決められないね。それにアフリカ系アメリカ人が色の黒い人ばかりでないとすると、アフリカ系アメリカ=黒人っていうのも怪しい。

このあと、W・E・B・デュボイス「アフリカ系アメリカ人の二重意識」、アフリカ帰還運動、ブラック・ナショナリズムの功罪についてまとめ、最後にマルコムXの演説を引用して、「政治的に正しく」ないかもしれない「黒人」という言葉が、植民地支配を受けてきた人々の連帯を示す可能性を明らかにして、第一回は終了。

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