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2012年5月7日(月)

明治学院非常勤、前期第四回目。前回、『ルーツ』で奴隷船の船長が罪深い事業に関わったことを悔いているのを見て、「白人のなかにも奴隷貿易を悪いと思っている人がいたことに安心した」という意見がだいぶあったので、少し問題提起をした。

奴隷貿易に関わったことを悔いる船長は、平気な顔で残酷な仕打ちをする奴隷監督スレーターよりもマシだと言えるだろうか。スレーターはおそらく、社会の底辺で辛酸を嘗めつくした末に奴隷船にたどりついた。生き残るために他者を踏みつけることを余儀なくされた人物だ。一方、船長には奴隷船に出資できるだけの金があり、生き残るためというよりも、事業の拡大のために奴隷貿易に手を出したのだろう。『鏡の国のアリス』に大工とセイウチの話がある。黙々と牡蠣を食べるセイウチと涙を流しながら食べる大工。大工の行為は、「偽善」と言うべきなのではないだろうか。

一方で、奴隷貿易に関わりながら、のちにそれを悔い、奴隷貿易廃止のために自らの体験を語った牧師ジョン・ニュートンのような人物もいる。有名な讃美歌「アメイジング・グレイス」は、ニュートンが罪深い生活から自分を救ってくれた神への感謝を歌った歌だ。

このあと、奴隷貿易と奴隷制に歴史について、年表を見ながら解説。さらに、アメリカに到着した奴隷たちがどのようにして売られていったか、競売台の様子をジュリアス・レスター『奴隷とは』から引用して、説明。最後に再び、『ルーツ』を見はじめた(詳しい内容は、去年の日記をご覧ください)。

アメリカ独立宣言の高い理想と奴隷制の間に見られる矛盾について話をしたところ、ある学生(アメリカからの留学生?)から「建国のときに矛盾を抱えていたのはアメリカだけではありませんよ」というリアクションがあった。もちろん、その通り。建国時どころか、いつだって、あらゆる国が矛盾を抱えている。日本だって、さまざまな矛盾を今でも抱えている(例えば、被差別部落、韓国・朝鮮人、アイヌ、身障者、同性愛者・・・あらゆる差別がある)。

アメリカ建国の理想と奴隷制という現実のギャップが大きいことは事実だ。100人以上の奴隷を抱えながら奴隷制に反対するような動きを見せたトーマス・ジェファーソンのような人物は、そうしたアメリカの矛盾を体現しており、彼の姿勢を「偽善」と呼ぶこともできるだろう。ただ、「偽善」だからすべてが悪いというわけではない。奴隷制という現実を前に、偽善になることを恐れて理想を掲げるのをやめればよかったのか。スレーターの現実主義は偽善ではないとは言えるだろうが、それでは何も変わらない。一方で、アメリカ植民地の議会が「民主的」な手段で奴隷制を合法化していったのは、理想による現実の隠ぺい(「民主主義という理想に沿って決断しているのだから、間違っているはずがない」)に他ならない。

高い理想を掲げたとき、現実がそう簡単に変わるものではない以上、必ず理想と現実のギャップ、「偽善」が生まれる。問題は現実に開き直るのでも、理想で糊塗するのでもなく、そうしたギャップを直視することだ。ジェファーソンは答えを出すことはできなかったかもしれないが、ギャップを埋めようと試行錯誤を重ねた。そうした努力は今の目から見れば、「偽善」と言う他ないかもしれないが、ギャップを埋めよう(弁証法的にいえば止揚?)とするエネルギーがアメリカの歴史を前に進めてきたのだともいえる。

次回は、自分とアフリカをめぐる「矛盾」「偽善」についての話も交えながら、そんな問題を提起してみようと思う。

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