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2011年9月17日(土)

ブログで論文の下書きをしてしまおうという連載企画(?)。今回は前回のイントロダクションに続いて、ヘンリー・ルイス・ゲイツ・ジュニアの「シグニファイン」を概説する第2節。

ヘンリー・ルイス・ゲイツ・ジュニアは著書『シグニファイン・モンキー』(1988)のなかで、アフリカ系ディアスポラに受け継がれてきた相互解釈のメカニズムを「シグニファイン」という理論的枠組みとして提示した。その際、シグニファインを示す文化的指標として取り上げられたのが、エシュ、もしくはレグバと呼ばれるトリックスター的存在である。ナイジェリアのヨルバ文化、およびベナンのファン文化に起源をもつエシュ=レグバは、アフリカ人奴隷とともに中間航路を生き延び、南北アメリカ大陸に定着した。ブラジルではエシュ、キューバではエチュ・エレグア、ハイチのヴードゥー(正確にはヴォドゥンと発音する)ではパパ・レグバ、合衆国のフードゥーではパパ・ラバスと呼ばれるこのいたずら者の神は、アフリカ/アフリカ系ディアスポラの神話体系において共通の重要な役割を果たしている。

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エシュ=レグバの役割は、一言でいえば、仲介者である。境界線としての十字路を司るエシュ=レグバは、人びとの望みを神々に伝える唯一の使者であり、神の領域と人間界をつなぐ多義的な存在である。

エシュの個々のヴァージョンはすべて、神々の唯一の使者(ヨルバ語では「エランシェ」と言う)、すなわち、神々の意思を人間に通訳し、人間の望みを神々に伝える者である。エシュは十字路の守護神にして表現と言葉の達人であり、また生殖と多産の男根神であり、俗世間から聖なる世界を分かつあのとらえどころのない神秘の障壁に精通したものでもある。エシュは巨大なペニスに憑かれた常習性交者(コピュレイター)としての特徴がよく語られるが、言語学的には彼は真実と理解、聖と俗、テキストと解釈を結びつける究極の連結詞(コピュラ)、つまり主語と述語をつなぐ語(動詞to beのひとつの形態のように)なのである。彼は託宣の文法と修辞的構造をつなげるのだ(『シグニファイン・モンキー もの騙る猿』 36)

エシュ=レグバは人間の望みを神々に伝えると同時に、より抽象度の高い神々の比喩的言語(denotative)を解釈して人間に伝える。あらゆるレベルの言語に通じた翻訳者であるエシュ=レグバを通じてはじめて、神々の託宣が地上に暮らすわれわれの字義的言語(figurative)に置き換えられるのである。エシュ=レグバの多義性は、こうした言語を横断する通訳としての性質に由来している。

エシュ=レグバを媒介とした神々と人間の相互解釈は、実際にはより複雑なプロセスを経て行われる。ヨルバの神話において、エシュは、ヨルバの最高神オロマドゥレが宇宙を創造するのに用いた力であるアシェを手にしている。高度に抽象的で改変することが許されないアシェは、人間はおろか、オロマドゥレ以外の神々もそのままでは理解することができない。アシェは神々の一人であるイファの託宣に表れる。イファの託宣を人々に伝えるのが、通訳者たるエシュの役割である。しかし、このプロセスはイファからエシュへ、という一方的なものではない。なぜなら、アシェの体系をイファに教えたのは、他ならぬエシュだからである。また、エシュはイファの託宣を追認することもあるし、非難することもある。さらに、十六個のパームナッツの卦として示されるイファの託宣は、ババラウォと呼ばれる司祭によって、卦ひとつひとつに対応した韻文に翻訳される。この韻文もまた、隠喩的で謎めいており、伺いをたてたものはそれを自分の苦境にあわせて解釈しなければならない。

このような多層的な相互解釈のメカニズム、オロマドゥレからイファ、エシュ=レグバへ、そして司祭ババラウォを通じて人間へとくり返し翻訳される位相の違う言語のやり取りこそが、悲惨な奴隷船の航海によっても消すことのできないアフリカ文化の痕跡だったのである。エシュ=レグバのヴァリエーションがアメリカ大陸に広く分布していることを指摘するとき、ゲイツが強調したかったのはエシュ=レグバという共通する文化的要素そのものではない。彼が読者の注意を喚起しているのは、通訳者としてのエシュ=レグバが体現している相互解釈のメカニズム ― シグニファインである。そうでなければ、アフリカ/アフリカ系ディアスポラの神話体系を離れた、アフリカ系アメリカ人の言説においてシグニファインが機能していることを示した『シグニファイン・モンキー』第二部は意味をなさなくなる。

受け継がれたのは文化的要素ではなく、「シグニファイン」という構造である ― こうした構造主義的な前提に立って、『まじない師の死』を見るならば、そこにはアフリカ/アフリカ系ディアスポラの神話体系をなぞったかのような相互解釈の構造が見られることに気づくだろう。

ひ~。今日はここまで。これから、後輩の結婚パーティーに行ってきます。

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