ハラレ郊外、豪邸が立ち並ぶ一角に、広大な敷地に建てられたムガベ大統領の邸宅がある。そばで見ただけではどれだけの広がりがあるのかすらわからない。延々と続く高い壁が持てるものと持たないものを隔てている。角を曲がると、重たそうな銃を抱えたカーキ服の兵士が一人、警備についていた。これを独立の英雄が受けるべき当然の報酬と考えるか、孤独な独裁者の乱心と考えるか。この国がどの方向へ向かうのか、まだまだ予断を許さない。

要塞のような高級住宅街を通りすぎると、再び境界のない世界が広がっている。枯れ草を揺らして心地よい風が吹き抜けていく。風の足あとを追うようにして幹線道路を離れると、カラフルな衣装を身に着けた人たちが、でこぼこと続く赤土の道を踏みしめるように歩いている。フロントグラスに土埃を積もらせながらしばらく車を走らせると、小さなタウンシップのむこうに茅葺き屋根の巨大な建物が現れる。このあたりの地名を取って「オチ・シティ」と呼ばれている、ライブ施設のあるレストランだ。今日はここで、「チェソ・パワー」を旗印に人気を集めるアリック・マチェーソがパフォーマンスを行うと聞いてやってきた。

レンガ造りの立派なステージのうえでは、オープニング・アクトの女性ダンス・グループが、腰をぐるんぐるん回しながら迫力のあるダンスを披露していた。指先までピシッと合わせたりしないところが、妙にエロティックで健康的だ。1、2曲力いっぱい踊っては、1曲休み、というのんびりした構成で、1時間ほど観客のご機嫌をうかがった。続いて登場したのは、アサガイという若手のバンド(写真)。トーマス・マプーモやオリヴァー・ムツクジ、ジョン・チバドゥラなどのカヴァーを中心に、後半ではレゲエも。ギターのチューニングがちょっと不安定だったのを除けばそつない演奏だが、ここまではあくまでもマチェーソ登場のためのお膳立てにすぎなかった。

アリック・マチェーソとオーケストラ・ムベリクワゾが登場したとたん、会場の雰囲気は一変した。満を持した観客がいっせいにステージに押し寄せ、パチンとはじけるようにして始まった演奏が観客の心に火をつける。ぼくもたまらず飛び出して、がくがくと身体を揺らした。一昨日のサクバ・スタジアムでもそうだったのだが、黄色い男がジンバブウェ音楽で踊っているのを見ると、現地の人たちはとたんに笑顔になる。何でこんなところにチャイニーズが?という一瞬の驚きとともに、愉快で、誇らしげな気持ちがこみあげてくるらしい。
マチェーソはベース・ギターリストとして、早いパッセージでリズムを先導していたかと思うと、太い弦をギターのようにかき鳴らしたり、片手をあげて軽快なステップを踏んだりと大忙し。よく聞くとその間も常に、ドッドッというベース音が休むことなく鳴り続けている。日本でライブ・ビデオを見たときから疑問に思っていたのだが、これを一人でこなすのは人間業ではない。どうもサブのベーシストがいるようだ(一瞬だが、巨大なアンプの後ろに姿を確認した)。それにしたって、あれだけの演奏をしながら、すべてを掌握するマチェーソのバイタリティは圧倒的だ。
しばらく踊ったり、ビールを飲んだりをくり返していると、レジが「ヒラゲさん、ステージのうえで踊りたくないか?」と言う。見ると踊りたい人全員集合!のかけ声に煽られて、観客がステージにつめかけている。「いや、ぼぼぼぼ、ぼくは・・・」「踊りたいんだろ?行ってくれば?」「いやややや・・・」ステージのうえでは素人が次々と自慢のステップを披露している。押し出されるようにしてステージ脇に行くと、スタッフが「なんだ!踊りたかったんか、チャイナ!早く言えよ」と、ぼくの手を握ってステージに引っ張りあげる。見下ろすと全員黒い顔の観客が、「ワー」と声を上げながらぼくを見ている。こうなったらもうヤケクソだ。でたらめなダンスを踊って、最後は両足を広げてジャンプした。ドラマーはさすがプロ、ぼくの着地のタイミングで鋭いスネアをパパンと入れる。ステージを降りたら、少年が片目をつぶって親指をつきだしてきた。
5時すぎにはじまったマチェーソの演奏は、9時をすぎてもまだ続いていた。ステージも観客もボルテージは上がるばかり。会場が真っ暗になり、停電か!?と思ったら(実際、この日、停電で何度か演奏が中断した)、演奏は続いている。ステージ脇の車が2台、ヘッドライトで観客を照らす。サプライズ的な演出に観客の興奮は最高潮。そんな騒ぎを横目にダウトがテンポ良く缶ビールを空けていく。だんだんろれつが回らなくなってきた。大丈夫か、こいつ。ドライバーなのに・・・と思っていたところへ、そんなことは軽く吹き飛ばす爆弾男がやってきた。

「ぐぉー」と野生的な雄叫びをあげて、コンクリートの敷居の向こうから飛び込んできたのは、ジャクソン。レジの近所に住んでいた彼とは去年、毎晩のように飲みに行った。引っ越したと言うので、今年は会えないと思っていたのだが・・・引越し先がこの辺りだったのだ。折れるかと思うほど激しく拳を突き合わせ、「お前ら、来てたのかああああ!」と荒っぽく抱きついてくる。Black BlackとプリントされたTシャツを着た爆弾男は、すでに相当出来上がっている様子。ぼくらの缶ビールを2缶、むんずとつかむと、1缶は自分で開け、もう1缶を相棒に投げて渡した。気のいいやつだが、酔うとジャイアン化する(多かれ少なかれぼくもそうだけど)。「俺んちに泊まれ!」とかなり強引な感じになってきたので、すきを見て退散することに。
またしても、素晴らしい夜だった。ジャクソン、また会おうぜ!
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