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2010年4月21日(水)

51h7y1xmsbl__ss500_アール・オファリ・ハッチンソンゆがんだ黒人イメージとアメリカ社会 ブラック・メイル・イメージの形成と展開』(The Assassination of the Black Male Image、1994、脇浜義明訳、明石書房、1998)を読み終わった。アメリカの歴史のなかで黒人男性は常に、「犯罪者、落伍者、怠け者、すぐに暴力に訴える粗暴なケダモノ、性的にも無責任な人間のクズ」(13)といった否定的なステレオタイプを押しつけられてきた。著者がさまざまな角度から明らかにしているように、そうした「神話」は現代 ― とりわけ、レーガン~ブッシュ政権以降の保守化したアメリカ ― でも力を持っている。白人男性チャック・スチュワートによる妻の殺害が、スチュワート本人の証言によって「黒人男性」の犯行とされた事件はその典型だ。「犯罪抑止」という仮面を被った人種偏見を暴いていく著者の舌鋒は鋭い。読者は白人、あるいは非黒人には見えない「差異」の世界をつきつけられる。

ところが、返す刀で黒人フェミニストを批判しはじめると、著者はとたんに「差異」に対する鈍感さをさらけ出す。クラレンス・トーマス判事が元部下のアニタ・ヒルにセクハラで告発された事件。マイク・タイソン夫人が夫を家庭内暴力で訴えた事件。こうした事件が黒人男性のイメージを傷つけ、ステレオタイプを助長するものだとしても、実際にセクハラや家庭内暴力に苦しめられている黒人女性が、こうした告発をせずに性差別と闘うことができるだろうか。黒人男性の暴力を告発したアリス・ウォーカーの小説などについても同様である。それとも、黒人差別だけが特別で、性差別や他の人びと(たとえばユダヤ人)に対する差別はそれよりも緊急性の低いものだとでも言うのだろうか。

ハッチンソンはこうしたフェミニズム批判を正当化するために、しばしば黒人の「庶民」が自分と同じ考えであることを強調する。彼の攻撃対象はインテリのフェミニストや白人といったコミュニティ外部の人間である。統計的な根拠のないこうした主張が本当であったとしても、庶民がいつも正しいとは限らない。ゾラ・ニール・ハーストン彼らの目は神を見ていた』で、主人公ジェイニーが狂犬病にかかった夫ティー・ケイクを殺害したとして裁判にかけられるシーンを思い出した。愛するものを殺さねばならなかったならなかったジェイニーの苦しみを、共に生活してきたコミュニティの人びとは理解できない。夫に殺されかけたジェイニーの行為が正当防衛であることを認めたのは、皮肉なことに白人からなる陪審員たちだった。コミュニティの矛盾はしばしば、コミュニティ内部の人びとには見えないものだ。

黒人男性の歪んだイメージについては多くを教えてくれる本。しかし、同時に「アメリカは黒人女性を普遍的なバケモノに仕立てなかった」(15)といった言葉に、他者の「差異」に対する無神経さがあふれている。沖縄で在日米軍兵士によるレイプ事件があったとき、人種偏見による冤罪を声高に主張する容疑者の家族を見て、同じような無神経さを感じた。差別や偏見に苦しんでいるのは黒人だけではない。まして、黒人男性だけではない。

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