無料ブログはココログ

« 2009年7月23日(木) | トップページ | 2009年7月25日(土) »

2009年7月24日(金)

お腹が痛い。クーラーつけっぱなしで寝たせいか?冷え冷えの冷房車のせいか?薬局に相談すると、正露丸を差し出された。「正露丸って下痢の薬じゃ・・・?」「冷えすぎてお腹が痛くなったときとかにも効きますよ」・・・正露丸は日露戦争のころに広まった薬で、ロシアを征するという意味で名づけられたと聞いたことがある(もともとの名前は「征露丸」)・・・嗚呼、俺の腹んなかのロシアが革命を起しそうだ・・・いや、待てよ。すると相手はボリシェビキか。それじゃあ、ロシアを征しちゃっていいのか。むしろ援軍を送るべきではないのか・・・敵がボリシェビキ(便秘)なのか、王党派(下痢)なのかもわからぬまま、でかい鼻くそのような薬を三粒、飲み下した。う~ん、マンダム。

Img347オクテイヴィア・バトラーの小説『キンドレッド きずなの召喚』(Kindred、1979、風呂本惇子/岡地尚弘訳、山口書房、1992)を読み終わった。オクテイヴィア・E・バトラーはアフリカ系アメリカ人の女性SF作家。何世紀にもわたって生き続ける超能力者たちの物語=パターニスト・シリーズ(1976-84)や異星生物との細胞交換から生れる新しい生命を描いたゼノジェシス三部作(1987-9)などの作品で知られる。『キンドレッド』は、そんなバトラーが人種問題に真っ向から取り組んだ異色作。現代の黒人女性が奴隷制時代のアメリカ南部にタイムスリップするという、SF的手法で書かれた「奴隷体験記」である(バトラー自身はこの作品をSFとは認めず、「ファンタジー」と呼んでいる)。こんな本が翻訳されていたとは知らなかった。

作家志望の黒人女性デイナは、派遣先の職場で知りあった白人男性ケヴィンと結ばれ、新しい暮らしを始めようとしていた。そんな最中、突然激しいめまいに襲われた彼女は、十九世紀のアメリカ南部へタイムスリップし、溺れかけていた白人の少年を救う。この少年こそ、黒人女性アリスとの間に娘ヘイガーをもうけたエデナの祖先ルーファスであった。ルーファスがトラブルに巻き込まれるたびエデナは150年前に呼び出され、命の危険を感じると現代に戻る。現代で短い時間をすごして戻ってみると、十九世紀南部ではまたたく間に時が流れている。不注意だが優しい一面もあったルーファスも、次第に奴隷制社会の欺瞞を内面化した青年へと成長していき・・・

ある意味、荒唐無稽な話だが、それでもリアリティが失われることがないのは、歴史に取材しながら、登場人物どうしの距離が注意深く描かれているからだろう。「距離」がこの作品のテーマの一つだといってもいい。エデナは黒人だからといって黒人奴隷たちにすんなり溶けこめるわけではない。白人のような言葉をしゃべり、主人と寝食を共にするエデナは嫉妬と憎悪の対象ですらある。もちろん、そこには避けられない連帯や共感もあるのだが。また、ルーファスは奴隷主(の息子)としてエデナを束縛する立場にあるが、その一方で常に彼女に窮地を救ってもらう必要を感じている。祖先であるルーファスの死はエデナ自身の消滅をも意味しているから、彼女もまたルーファスに依存している。二人は全く違う立場にありながら、奇妙な相互依存関係に陥っている。登場人物のなかで、最もエデナと近いところからものを見ているのはケヴィンだろうが、彼もまた白人の視点、男性の視点を捨てることはできず、彼女と全てにおいて共感しあえるわけではない。

このように、それぞれの登場人物が互いに距離を意識しながら、それでも深く関係せざるをえない姿を描いているところが、この作品の魅力だと思う。だから、単に奴隷制社会を告発する、といった内容にはなっていない。バトラーは当初、奴隷制時代に「何の抵抗もしなかった」祖先を責める黒人男性をモデルに作品を構想したという。果たして、その男性が奴隷制時代に生きていたら、祖先たち以上に気高く振舞えただろうか。それは白人の側も同じである。ルーファスやその父トム・ウェイリンは決して血に飢えた狂人ではない。その時代、奴隷制の狂気に感染し、暴力に憑かれた白人もいただろう。しかし、ここではそうではない。論理や感情を残した人間が「奴隷制」という制度に忠実にすごすと、欺瞞や自己満足でふくれあがってしまう、ということなのだ。ぼくだって、もしあの時代に奴隷主だったら、奴隷制に疑問を差し挟めたか、美しい奴隷の女性を前に手を出さずにいられたか、わからない。

もちろん、「だから、奴隷制を免罪せよ」というのではない。

私たちは自分たちの時代に疑問を差し挟むことができているだろうか。エデナとケヴィンという現代(1976年)のカップルによる人種間結婚を通じて、作者はそんな問いも投げかけているように思えてならない。

« 2009年7月23日(木) | トップページ | 2009年7月25日(土) »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/73760/45726458

この記事へのトラックバック一覧です: 2009年7月24日(金):

« 2009年7月23日(木) | トップページ | 2009年7月25日(土) »

最近のトラックバック

2017年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31