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2009年1月29日(木)

488pxambedkar0山崎元一『インド社会と新仏教 ― アンベードカルの人と思想』(刀水書房、1979)を読み終わった。ビームラーオ・アンベードカルはインドの政治家・思想家。マハールと呼ばれる不可触民の出身。ガンディー国民会議派と対立しながらもネルー内閣では法務大臣を務め、インド憲法の草案を作成した。不可触民解放の運動に生涯を捧げ、カースト制に固執するヒンドゥー教に失望して晩年仏教に改宗、新仏教運動が燃え上がるきっかけをつくった。

一般に、インドが独立へと向かう動きのなかで、イギリスは円卓会議に社会的・宗教的少数派を招き入れることによって、国民会議派の力を相対的に弱めようとした・・・と言われる。不可触民の代表としてのアンベードカルもそうした文脈で語られることが少なくない。植民地時代、不可触民のなかにイギリスに差別からの保護を求める傾向があり、イギリスの側がそうしたカースト間の対立を分断統治に利用してきたことは事実である。しかし、アンベードカルの国民会議派に対する不信には根深いものがあり、問題はそれほど単純ではない。

確かにガンディーは不可触民制撤廃のために積極的に動いた。「不可触民制が存在する限り、自治は意味がない」と語り、自ら不可触民の仕事とされる便所掃除を行うなど、人々の偏見を取り除くために身を挺した。しかし、一方でアンベードカルが不可触民差別の元凶であると見定めたヴァルナ制度(カースト制の基本となる「バラモン=司祭、クシャトリア=王侯貴族、ヴァイシャ=商人などの平民、シュードラ=農民などの下層民」という身分上の枠組。不可触民はさらにこの下に置かれる)の弊害を認めようとはしなかった。また、アンベードカルが求めた不可触民の分離選挙(不可触民が不可触民の候補を選ぶ)を国民会議派が受け入れることもなく、結果として生まれたのは不可触民に与えられた保留議席を全有権者(ヒンドゥー教徒インド人)が選ぶというものだった。この制度では多数派である国民会議派の息のかかった者しか選ばれないことになり、少数派の意見が議会に反映されることはない。どんなに国民会議派が差別解消を訴えても、不可触民自身が主導権を握った運動でない以上、それは政治的意図に満ちた温情主義にすぎない・・・アフリカ系アメリカ人の運動においてマルコムXが、反アパルトヘイトの運動においてスティーヴ・ビコが主張したのと同じことを、アンベードカルは主張していたと言うこともできるだろう。つまり、少数派が権利を獲得しようとするとき、まずは少数派だけで結束して運動の主導権を握らなければならない・・・ということ。農村に依存しその周囲に暮らしていた不可触民の人たちに、彼らだけの村を作ることをすすめたのもそのことと関係がある。

アンベードカルはやがてヒンドゥー教内での改革に絶望し、晩年、仏教に改宗する。アンベードカルの仏教解釈は必ずしも史実に基づくものではなく、多分に彼が「こう考えたい」仏教の姿であったようだ。でも、まあ、それもよし。アンベードカルがどんな宗教(というより思想)を求めていたのか、偶像崇拝に陥ることなく勉強してみたいと思う。というわけで、今度はアンベードカルの仏教論『ブッダとそのダンマ』を読んでみたいと思う。

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» 『 アメリカの黒人演説集—キング・マルコムX・モリスン他』 荒 このみ (翻訳) [Anonymous-source]
憲法が謳う自由と平等、アメリカの夢と現実。奴隷たちの七月四日を問いつめたダグラスと南北戦争後も遍見と格闘した男たち女たち。視野をアフリカへ世界へと拓いたガーヴィー。公民権闘争とその後の激動の時代をへて、今21世紀のオバマまで、21人の声を聴く。 ... [続きを読む]

» 『黒人大統領誕生をサッチモで祝福する』 平岡 正明 (著) [Anonymous-source]
黒人大統領誕生の萌芽はすでに、1917年のニューオルリンズにあった!?ルイ・アームストロングによってなしとげられたジャズの最初の革命のなかに、 21世紀には実現するであろう黒人権力の論理が埋伏されている…。揺るぎなき透徹した論考で展開される、本格的ジャズ論集。... [続きを読む]

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